クロスボーダー輸送の現状(問題と取り組み)
ASEANの国々の多くはインドシナ半島に密集しており、陸路で国境を越えて輸送が出来るという魅力があります。
これまでに数回に渡り、中国華南-ハノイ間の東部回廊、ベトナム-ラオス-タイ-ミャンマーの4カ国を通る東西回廊のクロスボーダー輸送についてお伝えしてきました。今回は、ASEANのクロスボーダー輸送の最新現状をお伝えします。
■ クロスボーダー輸送の問題
クロスボーダー輸送は違う国を跨って輸送を行う為、お互いの国のインフラや法整備の違いにより様々な問題が発生しています。 これらの問題は、輸送費のコスト増に直接繋がる大きな問題となっています。
以下にクロスボーダー輸送の問題点を整理してみました。
これは、バンコクからベトナム北部への荷量に比べ、ベトナム北部からバンコクへの荷量が少ないという問題です。
理由としては、タイは中国華南地区に次ぐ産業集積地であるのに対し、ベトナムは未だ裾野産業の育成途上であり、輸出品が少ない事が考えられます。この事が、物流事業者が船舶の2~3倍近くの運賃設定をせざるを得ない原因になっています。
この片荷問題は、バンコク~ベトナム北部間だけでなく、ベトナム北部~中国華南地区間でも起こっています。ベトナム北部~中国華南地区間のクロスボーダー輸送では、海上輸送とリードタイムがそれ程変わらないにもかかわらず、運賃が2倍以上になっています。これでは、「海上輸送よりも早い」という陸送の本来のメリットが出せません。
② 通関・積替に伴うコスト増・時間増・品質低下
国境通関で天井付きの倉庫が無く露天下で荷物を積み替えていたり、品質低下の問題が発生しています。また国境での荷物積替えにはコンテナのシャーシごと交換ができるLO/LO方式クレーン(垂直荷役方式)を使用しますが、これは公共の設備であるため、 渋滞が発生しています。
各国間の通関ルールが不透明で整備されていないため、税関の開庁待ち時間が発生したり、税関通過時にデポジットが発生したりする等の問題も起こっています。
③ 振動・温度・湿度等輸送管理確保
ASEANの道路事情は悪く、悪路走行による振動で貨物の破損問題が多く発生しています。またASEANの多くの国は熱帯気候に属しており、高温・高湿によるサビ等の問題も発生しています。道路インフラ整備の発展、サビが懸念される貨物に対しては温室管理されたコンテナ利用が必要です。
■ クロスボーダー輸送問題に対する取り組み / 現状
① 片荷問題
POINT
・裾野産業の育成
・同地域進出企業による国際分業体制の構築ASEANはEコマースの成長が著しく、ある物流業者は片荷問題の解消として、空荷となったコンテナをEコマース商品の混載便のコンテナとして活用することで、物流コストの削減をしています。またこの片荷問題は、その地域の裾野産業の成長や国際分業体制の構築によって解消されると考えられます。
弊社は中国華南にも工場がありますので、ベトナムと華南の分業体制を構築することで輸送費の無駄を削減できるのではないかと考えています。
② 通関・積替に伴うコスト増・時間増・品質低下
POINT
・法制度・通関手続きの整備、運用面の透明性向上
・輸出入申告、港湾手続きの電子化⇒簡素化、合理化、迅速化
⇒ ベトナムなどで導入開始。但し、電子手続き後の通関書類提出は引き続き必要であり、全面電子化に向けた課題は残る。
・保税手続きを含む通関制度の整備と統一⇒通関のワンストップ化
⇒ 東西経済回廊のベトナム、ラオス国境においては運用開始。
⇒ 税関検査による混雑も発生。
・シームレス物流による物流活性化
⇒ 運用開始:タイ⇔ラオス、ラオス⇔ベトナム
CBTA(越境交通協定)というメコン地域の越境交通円滑化に関する多国間協定があります。参加国は、中国(雲南省)、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムです。CBTA参加国間の国境での輸出入の手続きが1回で可能になる「シングルウィンドウ」が完全に実施・実現すれば、書類作成や手続きの時間的なコストや煩雑さはかなり低減され、手続きに掛かる時間は現状の約3時間程度から30分程度にまで短縮できる見通しです。現在のところ、CBTAで積み替えなしに輸送可能な経路は東西経済回廊沿線に限定されており、例えばダナンより先のハノイまでは輸送できません。
現状は各国の交通インフラや法規制の整備は途上であり、効率的な陸路物流の完成には未だ時間を要すると思われます。
③ 振動・温度・湿度等輸送管理確保
POINT
・道路、港湾、交通インフラ整備
⇒ 舗装、メンテナンス継続、街灯設置、橋梁補強港湾・空港の拡張、慢性的な渋滞緩和策、など
ある物流業者は悪路走行の振動を低減する為、エアサスペンションを採用する等の工夫をしています。2013年の訪問時から第4、第5友好橋も開通しメコン川流域のインフラ整備は進んではいるものの、未だ満足できるものではありません。更なる整備・拡張が必要だと思われます。また車両の相互乗り入れに関しては、現在はラオスで登録された車両ならタイ、ベトナムでも走ることができますが、タイの車両はベトナムで走ることはできません。これはタイ―ミャンマー間においても同様です。
2015年に設立されたASEAN経済共同体(AEC)。経済レベル、文化、民族が異なるASEANの加盟国がひとつの目標に向かって一緒に取り組んでいくAECでは、もっと自由にヒト・モノの行き来ができるよう、ワンストップでの通関手続きシステムが早急に導入されることを期待しています。
著しい発展を遂げているASEANですが、未だ解決しなければいけない課題は数多くあります。
これまで数回に渡りASEANのクロスボーダーについてお伝えしてきました。次回は、実際に弊社がクロスボーダー輸送を行った現場の声をお届けしたいと思います。弊社の活動が皆様のビジネスのお役に立てる様、今後もASEANの最新事情をお伝えします。
参考:
【 I. 東莞~ハノイ編】ASEAN メコン圏の物流インフラ事情と輸送コスト
http://www.dynaox.com/solution_jp/2014/04/logistic-infra_mekong01.html#nav
【II. ベトナム・ラオス編】ASEAN メコン圏の物流インフラ事情と輸送コスト
http://www.dynaox.com/solution_jp/2014/07/logistic-infra_mekong02.html#nav
【III. 東西経済回廊編】ASEAN メコン圏の物流インフラ事情
http://www.dynaox.com/solution_jp/2015/01/logistic-infra_mekong03.html#nav
ASEAN物流事情
http://www.dynaox.com/solution_jp/2016/10/asean_logistics.html